事業体の吸収合併や事業譲渡といったM&Aは調剤薬局業界では以前から多く見られました。その理由は譲渡する側も譲受する側も、得のある良好な関係が作りやすいからです。個人商店的な小規模薬局のオーナーにとっては、自分自身の高齢化、薬価問題とライバル台頭による経営圧迫、困難な薬剤師の確保といった重層的なマイナス要素に押されています。とりわけ自分の子供に跡を継がせたくても薬剤師の資格を持っていなかったり、経営だけを任せるにしても収益構造が厳しいという現実があります。しかし長年の付き合いがある門前医院や地域住民の利便性を考えると簡単には閉局できないという思いもありますし、つぶしてしまったら薬剤師や事務員らの再雇用先の確保という責任も生じます。できるならば店は残したいという気持ちを抱くオーナーが多い環境があります。こうした閉塞状況を打開する経営支援の一つがM&Aです。
譲受側にとってメリットが多い既存小規模薬局のM&A
地域に長年貢献してきた小規模調剤薬局がさまざまな理由からM&Aを選択した場合、譲受側は大手薬局会社が多いです。大手薬局会社がM&Aに積極的な理由は明確で、経営メリットがあるからです。新たに店舗を出すとしたら、好ましい立地の確保、予測される利用者のリサーチ、なかなか難しい薬剤師の確保という問題があります。しかし既存の薬局をM&Aで手に入れることができれば、そうした事前のマーケティング業務はかなり割愛できますし、既存薬局で働いている薬剤師をそのまま雇用することで求人問題も解決できます。
つまり、閉局も考えざるを得ない小規模薬局が抱える承継問題や従業員の再雇用といった重要な問題点は、譲受側にとってはデメリットになることは少なく、むしろメリットになる可能性が高いという現実があります。迅速さを求められるM&Aという経営支援は小規模経営が多い薬局業界にマッチしています。
IT化が必須となる今後の薬局ビジネス
小規模調剤薬局を大手薬局会社が引き取って店舗を存続させ、薬剤師らの雇用を守るM&Aは現在の薬局ビジネス界の実情にマッチしていることから、サポート企業が活躍する局面が増えています。この潮流を後押しするのが薬局ビジネス界のIT化です。現状は他の産業分野に比べて遅れているという指摘が多いです。処方箋をもとに薬品を処方するのが薬剤師の仕事の一つですが、この処方箋を発行するシステムの古い型は使い勝手が悪く、薬剤師の仕事の効率を妨げているケースも皆無ではありません。患者にとって大切なお薬手帳も基本的に紙製です。しかし正確な薬剤情報が簡単に処方でき、患者側もスマートフォンのアプリでデジタルお薬手帳を利用できるといったIT化は喫緊の課題です。
経営が厳しい小規模薬局では高価なシステム導入は難しい現実がありますが、大手薬局会社であればスケールメリットや資本力を活かしてIT化への投資は可能であり、生産性向上の実現も期待できます。その意味でもM&Aによる経営支援は今後加速化する可能性が高いです。